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後出しジャンケンができなくて
相見積もりには、今後参加しないことにした。
ありがたいことに、今年に入ってから何件か、相見積もりの依頼をいただいた。せっかく相談していただいたのだから、できるだけ早く、誠実に応えたい。そう考えて、図面を描き、素早くプランをまとめ、見積書を作り、プレゼンテーションの資料まで準備して持参していた。
ところが、なぜか毎回負ける。
ある日、知り合いの工務店D社のYさんに、そのことをこぼした。
「相見積もりになると、なぜか毎回負けるんですよ」
話を聞いたYさんから返ってきたのは、思いがけないひと言だった。
「後出しジャンケンが鉄則ですよ」
なんと、そういうものだったのか。
こちらとしては、あとから「すみません、思っていたより高くなりました」と伝えることを避けたい。そのため、事前に想定できる工事は、できる限りすべて見積もりへ盛り込んでいた。
そう説明すると、Yさんは少し苦笑いを浮かべながら、
「それでは勝てませんね」
なるほど。相見積もりとは、持っている情報を最初からすべて差し出して勝負するものではないらしい。相手の提案や金額を見ながら条件を調整していく、一種の駆け引きでもある。
本当に、勉強になった。
もちろん、声をかけていただけること自体は、とてもありがたい。ただ、自分たちは、そうした腹の探り合いが得意ではない。
それよりも、
「ここをこう直せば、もっと暮らしやすくなる」
「この素材なら、きっと好みに合う」
そんな話をしながら、住まいの可能性を一緒に考えているほうが性に合っている。
価格や条件を競い合うのではなく、価値観や考え方に共感していただいた人と、じっくり時間をかけて住まいづくりに向き合う。限られた時間を、よりよい空間を考えるために使う。
自分たちには、その仕事の進め方が向いているようだ。
