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ひとりの暮らし|住みながら居心地を育てる

畳屋の工場だった建物を改装した、大阪・上町のワンルーム。Tさんはそこで、季節のものを飾り、灯りを選び、時には友人を迎えて暮らしています。住まいを選ぶときに大切にしたこと、暮らしてから見つけた工夫について、HAMANOが聞きました。

「この街に住みたい」と思った理由

HAMANO: 今のお住まいはどんなところですか?

Tさん: 大阪の上町にある賃貸の部屋です。もともと畳屋さんの工場兼事務所だった鉄骨の建物で、1階が店舗、2階が私の部屋、3・4階には別のご家族が住んでいます。私の部屋は40㎡のワンルームです。

HAMANO: 以前はどちらに?

Tさん: 大阪の我孫子に長く住んでいました。学生の頃、近くに祖母や叔母がいたので、いとこと一緒に住み始めたんです。祖母とご飯を食べたり、洗濯物を受け渡したり。その後、祖母が亡くなり、いとこも出て、2LDKに一人で住み続けました。仕事も忙しく、家は帰って寝る場所のようになっていました。

でも、あるとき街の空気が自分に合わなくなったと感じて。街も私も変わったのかもしれません。フリーランスになり、家で過ごす時間も増える時期だったので、暮らしをもう少し大切にしたくて引っ越しを考えました。

HAMANO: 次の街はどう選んだのですか。

Tさん: 玉造で働いたことがあって、このあたりには馴染みがありました。歩いていて気持ちがいいし、大阪城にも行ける。交通の便もいい。でも、同じような間取りの新しいマンションには、あまり惹かれませんでした。古くても、少し面白い部屋がよくて。

知人が今の物件を紹介してくれました。まだ一般には出ていなかった部屋です。友人が内見して送ってくれた動画を見て、「ここにしよう」と。自分のことをよく知る人の意見も聞いて、決めました。

HAMANO: 物件探しに協力してくれる友人がいるって、素晴らしい。そして街の落ち着きと、建物の個性。その両方が合ったのですね。

Tさん: そうです。大通りから一本入ると静かで、近所には昔からこの土地で仕事をしている方もいる。住んでみて、やっぱりここを選んでよかったと思っています。

完成しすぎていない部屋の楽しさ

HAMANO: 部屋のどんなところが気に入っていますか。

Tさん: 以前住んでいたスウェーデンの方が改装したそうで、使い方がちょっと面白くて。ベッドは壁から下ろす仕組みで、上げると下に座る場所が現れます。部屋を仕切る吊り障子は3枚あって、それぞれ柄が違う。床も天井も木で、天井が高く、ワンルームなのにキッチンも広いんです。

ベッドを毎日上げ下げするのは少し面倒です(笑)でも、その手間も含めて好きなんです。住みながら「ここに椅子を置こう」「この灯りがほしい」と考える余地があるから。

HAMANO: 住む人が手を加えられる余白があるんですね。一方で、暮らしてみて困ったことは?

Tさん: 最初は上の階の子どもたちの足音がつらかったです。一度、家にいられなくなってホテルに泊まろうかと思ったくらい。でも、ご家族と普段から話せる関係だったので相談できました。ドアの閉まる音は、大家さんに調整してもらったんです。子どもたちに静かにして、と言うだけでは難しいことも、建具を直せば改善できますよね。

HAMANO: 関係をつくりながら、道具も変えていく。住み心地って、そうやって少しずつ整えられるものですね。

Tさん: そう思います。上の子たちを知っていると、音がしたときも「あ、帰ってきたんだな」と顔が浮かびます。

季節を飾り、人を迎える

HAMANO: 部屋ではどんなふうに過ごしていますか。

Tさん: 音楽を聴いたり、レコードをかけたり。本やレコードを飾る棚があって、そのときの気分で置くものを変えます。今日はこれを聴きたい、というものを手に取れる場所です。

高知の実家では、玄関に季節の花を飾って、花瓶も替えていました。祖父が育てた月下美人が咲く夜に、それを眺めながら夕食を食べたり、春には山菜を採ったり茶摘みをしたり。大人になってから、自分が今も飾る場所をほしがるのは、そういう暮らしがあったからだと気づきました。

HAMANO: 先に「季節を感じたい」という過ごし方がある。だから、置きたいものや必要な場所が見えてくるんですね。

Tさん: そうかもしれません。灯りも、部屋全体を明るくするより、くつろぐ場所から見える壁に光を落としたい。夜は照明を少し落として、音楽を聴いたり、お酒を飲んだりします。気分でグラスを替えることもあります。

HAMANO: 友人を家に迎えることもありますか。

Tさん: 年に何度か。高知から来た幼なじみが泊まることもあります。実家では外国から来た人をホームステイで受け入れていましたし、私自身も中学生のときにカナダへホームステイに行きました。人が家にいることは、あまり特別ではないんです。大げさなことはできなくても、その人が喜びそうな食べ物を考えるのが好きです。

いつか大阪でやりたいことをやりきったら、地元で自分の宿をつくりたいという気持ちもあります。

HAMANO: 今の暮らしや仕事も、その宿につながっていくかもしれませんね。

Tさん: 最初からそこを目指して選んできたわけではないです。でも、そのとき自分がいいと思うものを選んできたので、いつかつながる気がしています。

前の住人の工夫を受け取る

HAMANO: 今の部屋で、これから変えたいところはありますか。

Tさん: かなり気に入っているので、大きく変えたいところはないですね。キッチンの窓の向こうには、隣の建物の古いトタンの壁が見えます。前の住人が窓の近くに造花のアイビーを垂らしていて、すりガラス越しには緑が茂っているように見えるんです。それが素敵で、私もそのままにしています。

HAMANO: 毎日そこを見ていた人だから思いついた工夫かもしれません。前に住んだ人の知恵が、今の暮らしにも残っているんですね。

Tさん: そういうものを見つけるのも楽しいです。5年ほど住んで、この前初めて、吊り障子に小さなマグネットが付いていて、ぴたりと止まることに気づきました(笑)まだ知らない工夫があるかもしれません。

HAMANO: 住まいは、住み始めた日が完成ではないのですね。以前の人が残したものを受け取りながら、自分の暮らしに合わせていく。Tさんの部屋には、その時間が見える気がします。

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