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ジャーナル

暮らしをほどく|すわる

椅子をつくることは、居場所をつくること

graf 松井貴さんと、「すわる」を考える

 

 

プロダクトデザイナー、松井貴さん。建築設計事務所での勤務、アンティーク家具の修理を経て、1998年にgrafの活動をスタート。現在はgraf取締役として、家具やプロダクトを中心としたデザインを手がけている。

食べる、働く、休む、誰かと話す。私たちは一日のなかで、何度も座り、その場所で時間を過ごしている。今回は「座る」をテーマに、クララの濱野が松井さんを訪ねた。座り心地をつくる見えない構造から、使い手の暮らしに委ねる余白まで、椅子を通して日々の営みを考える。

座り心地は、見えないところでつくられる

濱野: まず、座り心地について聞きたいです。何が、座り心地のよさに影響するのでしょうか。

松井: 基本には、人間工学的な寸法や角度があります。作業する椅子なのか、休むためのソファなのかで、座面の高さも傾きも違う。作業するときは水平に近く、場合によっては少し前に傾ける。休むときはお尻の方を下げ、背もたれにも体重を預けられるようにする。座面と背もたれの関係が大事なんです。

それと、ソファなら中身の構造です。木のフレームにバネを組み合わせ、硬さや厚みの違うウレタンを重ねる。同じ材料でも、重ねる順番を変えただけで座り心地が変わります。見えない中身の組み合わせによって、感触を組み立てていくんです。

濱野: 角度によって、どこに体重をかけるかが変わる。その身体を預けた先がどう受け止めるか。この二つが掛け合わさって、座り心地になるんですね。

松井: そうですね。柔らかくても、沈んだ先で底に当たってしまうとよくない。最初に触れた感じだけでなく、座った身体をきちんと支えることまで考えます。

もう一つ意識するのは、見た目と実際の座り心地にギャップをつくらないことです。人は生まれてから、いろいろなものに座っている。その経験を身体が覚えているから、椅子を見ると、だいたいこんな感触だろうと想像するんです。

濱野: ふかふかに見えたのに、座ったら思いのほか硬いと違和感がありますね。

松井: できるだけ、見たままの座り心地にしたいと思っています。身体で感じるものと、目から入る情報を、別々には考えていないんです。

 

3/6 Sofa (サブロクソファ 1人掛)

 

家具というモノの先に、場所と時間がある

濱野: 新しい家具をつくるときは、目指す座り心地や、使う場面が先にあるんですか。

松井: どう使うのか、どれくらいの時間を過ごすのかを設定します。しっかり休むのか、ほどほどにリラックスするのか。それによって、素材や組み合わせを変えていきます。

「家のなかに、こういう時間があったら素敵じゃないですか」という提案は、すごく意識しています。昔からそうだったわけではなく、年を重ねるにつれて、自分が家具に求めるものも変わってきました。

食べる、寝る、休む。家具は、一日の生活のリズムの要所で、大事な場所になっているはずなんです。ダイニングテーブルも、ご飯を食べるだけではなく、家族と話したり、仕事をしたり、何か作業をしたりする場所ですよね。

濱野: 家具というプロダクトだけれど、それ自体が生活の場所になっている。

松井: そうです。場所と時間をイメージしながら、生活の活動をするための場所をつくっている、という認識があります。ソファも、起きている時間のなかでは、長く過ごす場所かもしれません。

濱野: 座るといっても、食事、仕事、テレビを見る時間と、いろいろありますね。座る道具をつくることは、それぞれの時間の過ごし方を考えることでもあるんですね。

床にも座る、私たちの暮らし

濱野: 日本人が感じる座り心地と、ヨーロッパなど海外の人が感じる座り心地には、違いがあると思いますか。

松井: 違うと思います。もともと日本では床に座っていたので、姿勢も違えば、慣れている硬さも違う。「座る」ということに求めてきたものや、その背景が違うんでしょうね。靴を脱いで暮らすかどうかも、大きな違いだと思います。

濱野: ソファがあるのに、それを背もたれにして床に座る人もいますよね。子どもの頃を思い出すと、畳に座布団を敷いて、それぞれ好きなところに座っていました。ソファに座るというのはちょっと憧れみたいな(笑)僕には、日本人がソファを大きな座布団のように使っている感覚もあります。あぐらをかいたり、寝転んだり。そういう姿勢も、「座る」には含まれている。

松井: 靴を履いたままの暮らしとは、使い方も違ってきますよね。僕の家にも、もともとソファはありませんでした(笑)初めてのソファは、自分で買いましたよ。

濱野: 一方で、少しくたびれていても「この椅子がいい」ということがあります。新しいものの方がよさそうなのに、父親がずっと座っている椅子を替えないとか。身体が合わせにいっているのかな、とも思うんです。

松井: 愛着なんでしょうね。座り心地がいい椅子は、ほかにもたくさんあるはずです。でも、それだけではないんでしょう。「もったいない」という感覚も、関係しているのかもしれません。

僕はgrafを始める前に、七年ほどアンティーク家具の修理をしていました。手入れをして長く使うことが、もともと好きなんです。自分自身も物持ちはいい方で、ずっと使い続ける。grafの家具も、そういうふうになってほしいと思っています。

 

Plankton Chair(プランクトンチェア)

 

定番は、長い時間をかけて育つ

濱野: 最近、取り組んでいる椅子はありますか。

松井: 今はダイニングチェアを考えています。同じフレームで、板座や張り座、ペーパーコードなど、座面のつくり方を変えられないかと。座面を変えることで、用途や座り心地にも違いが生まれます。まだ開発の途中ですが、将来、メンテナンスのときに別の仕様へ変えることもできたら、と考えています。

濱野: 一度買って終わりではなく、手入れをしながら長く使えるものにしたい。

松井: grafを始める前に、七年ほどアンティーク家具の修理をしていました。だから、直しながら使い続けることには、もともと親しみがあります。

それと、僕は定番が好きなんです。ただ、定番は、つくろうと思えばつくれるものではない。長い時間をかけて認められて、「やっぱりこれがいいよな」となっていくものです。自分が好きで使ってきたものに、今の自分の考えを少し加えて、「これ、どうですか」と提案する。そんなつくり方をしています。

濱野: 長く使ってほしい一方で、新作も買ってほしい、という思いはありませんか。

松井: もちろん、新しいものを買っていただくのはうれしいです。でも、同じお客さんに次々と買い替えてほしいとは、あまり思わないんです。

学生の頃に椅子を買ってくれた方が、十年ほどして、今度はパートナーとダイニングテーブルを選びに来てくれる。家を建てて、またソファを買いに来てくれる。そういう方がいるんです。時間をかけて少しずつ買い足しながら、付き合ってくださるのは、本当にうれしいですね。

濱野: 僕のお客さんにも、以前からgrafの椅子をお持ちで、結婚して、お子さんが生まれて、久しぶりに伺うと椅子が増えていた方がいます。暮らしの変化に合わせて、家具も増えていく。ずっとつくり続けているからこそ、できることですね。

構造が形になり、使い手が加わる

濱野: 椅子には、座る道具としてだけでなく、見て楽しむ面もあります。形については、どんなことを大切にしていますか。

松井: 学生の頃に聞いた「構造が意匠となる」という言葉を、ずっと覚えています。座るため、身体を支えるための構造が、結果として形になる。そこを目指したいと思っています。

好きな椅子はいろいろありますが、イームズのシェルチェアも、最初は直感的に好きになりました。でも、深く見ていくと、細いワイヤーを組んだ脚が、構造そのものの美しさになっている。感覚的にいいと思えることと、その背景に筋道があること。そのバランスが好きなんです。

濱野: 目で見て座ってみたくなって、実際に座ると納得する。身体の経験と、形の美しさがつながっているのかもしれませんね。

松井: ただ、椅子や家具だけが主役になるのは、ちょっと違うと思っています。使う人と合わさって、さらによくなるものがいい。人がひと手間加えたり、自分なりの使い方をしたりするところが面白いし、そこにクリエイティブなものを感じます。

同じ定番を使っていても、置く場所も、使い方も、みんな違う。その人なりの使い方に魅力を感じるから、定番が好きなんでしょうね。

濱野: 飾って眺めるだけでなく、暮らしのなかで使われて、本領を発揮する道具なんですね。

座ることで、時間を切り替える

濱野: 改めて、「すわる」とはどういうことだと思いますか。

松井: 食べる、働く、休むと幅は広いですが、一日のなかで、気持ちを落ち着かせたり、切り替えたりすることとつながっていると思います。椅子は、そのスイッチを切り替えるための道具でもあるんでしょうね。

濱野: 「ちょっと座ろうか」と言うと、立ち話とは違って、ここでしばらく時間を過ごそう、という気持ちになりますね。

松井: 今後は、家具を次の使い手につなぐようなことも考えてみたいです。まだ実現していませんが、grafの家具を回収して、手を入れて、もう一度使ってもらう。修理をしてきた経験もあるので、そういうセカンドユースの仕組みができたらと思っています。

 

能勢にある graf labo

 

あとがき

座り心地の話から始まった対話は、いつの間にか、生活の場所と時間の話になっていた。食事をする、ひと息つく、誰かと話す。そのたびに椅子は身体を受け止め、次の時間へ気持ちを切り替えてくれる。

松井さんが大切にしているのは、家具だけで完成する美しさではなく、使う人が加わることで育っていく関係なのだと思う。同じ椅子でも、その人の暮らしのなかで、違う居場所になる。建築でも、使い手の工夫や時間が重なることで、その場所らしさが生まれてくる。座る道具の先に、そこで過ごす人を思い描くこと。その視点を、改めて大切にしたいと思った。

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